The 3rd. ..........なべてこの世はこともなし

 沖縄移住17年のゲイが垂れ流す身辺雑記,気になる記事,ノロケ,過去旅話。

No.5011:ダナン(Đà Nẵng)を巡って12

 翌朝。
 大欠伸一つして,僕はふかふかベッドから起き上がった。今日は半日かけてのフエ(Huế)への移動日だ。
 予約していたフエ行きのツアーバスが迎えに来るのは11時。チェックアウトもその頃にさせてもらうことにして。ふらふら朝の街歩きでもしようか,と外に出たら昨日のシクロマンがにこにこ笑って立っていた 。このミニホテルの前を客待ち場所にしているのか,それともフエ行きのバスに乗る前に僕がどこかに出かけるかもしれないと読んでいたのか。
 「Where will You go?」
 ・・・当てはないなあ。ちょうどいいからまた頼もう。向こうもそれを期待してるわけだし。
 赤いビニール張りのシートに座り込んで,出発進行。で,どこへ?
 「Well, at first, Bach Dang street.」
 朝のハン河沿いはどんな感じだろう?と期待していたのだが,夕涼みの魔法が切れたそこは,ただの普通の通りでしかなかった。

 ふと,行ってもらいたい場所が頭に浮かんだ。
 「Go to the fish market.」
 ・・・朝なら,魚市場らしい活きのよい光景が見られるかもしれない。
 OKとシクロがまた動き出す。バクダン(Bạch Đằng)通りからドンダー通り(現在はレズアンLê Duấnと改称)・・・?? 昨日,バイクで通ったのと道筋が違うような気がするが。
 両側に2階建てくらいの高さの建物が立ち並ぶ,広目だがちょっと雑然とした通り。物売りやシクロ,行き交う人も多くて,生活の匂いが漂っている。
 「Here!」
 そう言って彼が指差したのは・・・コン(Cồn)市場。そう,昨日歩いて通りすがったダナン第一の公設市場。それは「Fish market」ではなくて「Big market」だ。お互い英語の発音と聞き取りに大きな欠陥があったらしい。
 とはいえ,来てしまったものは仕方がない。見物していこう。歩道にきっちり寄せて停めてくれたシクロから降りると,ドライバーも後からついてくる。
 グレイの大きな建物の中は,どこの市場も同じ。狭い通路を挟んで小さな店々。ぎっしり品物を並べたのを眺めるだけで,圧倒されてしまう。無論活気もあって・・・いや僕にとってはあり過ぎだ。
 適当にぐるぐる廻って,入って来た場所に戻った。さっきは気づかなかったミュージックショップ(というほどのものじゃないか)がある。そうだ,アオチャン(Ao Trang)という女の子グループのテープがないだろうか。
 ドライバーに言って,そういうグループのテープがないか探してもらう。有名らしく,店の人はすぐに見つけ出した。高校生風の白いアオザイを着た写真のカセット。一瞬海賊版かな?と思ったけど,テープにもちゃんとメーカーやら番号が印字されているから,本物だろう・・・か。

 ほくほくと外に出ると,サトウキビのジュース:シントー(Shin Tố)の屋台が店開きしていた。シクロを動かそうとするドライバーを止めて,ライムのジュースをおごる。3月とはいえ,ヴェトナム中部はもう暖かい。風通しのあまりよくない市場の中を歩いた後,ぶっかき氷の入ったジュースは溜息が出るほど甘露なのだ(この後,お腹の調子が悪くなるかな?と少し心配だったが,まったく何ともなかった。胃腸もヴェトナム慣れしてしまったらしい)。
 昨夜のバインミー(Bánh Mì)に始まって,Ao Trang,シントーという行動は,ドライバーのよく見る外国人観光客のパターンとは違っていたようで,かなり打ち解けて話をするようになった。
 シクロが好きなのにサイゴン(ホーチミン)市ではシクロに安心して乗れない,と嘆いたら,「サイゴンにはシクロの悪質なマフィアがいるからねえ。だけどダナンにはまだいないよ。だから安心して乗れるんだ」・・・映画「シクロ」みたいな話だ。

 どこという当てもなく,彼に任せて市内を巡る。街の様を眺め,背中越しにお喋りしながら。・・・それにしても,昼間は外国人の姿が全然見えない。夕方になるとかなり見かけるというのに。皆,ホイアン(Hội An)とか五行山,ミーソン(Mỹ Sơn)遺跡やハイヴァン(Hải Vân)峠など,近在の観光地に出かけたのだ。確かに,大きな都市として便利ではあるけれども,市内そのものにはめぼしいスポットは少なく,観光の中継地点という感じだ。
 そういえばもうフィルムが足りない。最寄りのカメラ屋につけてもらった。コダックのISO400,36枚撮りを3本。店頭のケースにはISO100しか置いてなくてまごまごしていたら,彼がヴェトナム語で店の人に伝えてくれた。Cám ơn!
 せっかくだから,と シクロ入りで記念に写真を撮った。ドゴール帽を目深にかぶり直して,はい,チーズ! できたら日本から送るから,名前と住所を書いてくれよ。
 旅行の間に何でもかんでも書き込んでいるメモ帳。その1ページにさらさらっと書いてくれた名前を見て僕は驚いた。Ton That Chuongという姓名の前二つは,漢字に直せば尊室。最後の王朝である阮朝の流れの一族の姓だ。有名どころでは,フランス植民地化の過程で咸宜(Hàm Nghi ハムギ)帝を担いで反仏運動をやったトン・タット・テュエット(Tôn Thất Thuyt:尊室説)が出ている。・・・世が世なら,傍系皇族の一人として高級官僚にでもなっていただろうに。

 そんなことをしているうちに時計の針は10時をまわった。そろそろ戻らなければいけない。昨日と同じ単価で計算して支払って,宿の前で握手して別れる。
 1時間後。フエ行きのバスに乗り込んで,動き出した窓の外を眺めていたら,四つ角に彼がシクロを停めて立っていた。笑顔で手を振っている。ちょっとじんとした。窓を開けて,僕も手を振り返す。
 いいやつだったな。サイゴンにも彼,Choung君みたいな実直なシクロマンが大勢いれば安心できていいんだが。


ダナンのシクロマン
Google Map, Vietnam(1998.03)




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  1. 2015/11/03(火) 09:18:35|
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No.4734:ダナン(Đà Nẵng)を巡って11

 はふぅ,と胃の辺りを撫でながら外に出た。
 「Hallo!」
 あのドゴール帽の青年だった。店の前の車道にしっかりシクロを停めて,笑顔で手を振っている。ずっと待っていたらしい。気の長いやつだ,と半分呆れる。
 だが,表情にまったく邪気がないし明るい感じだ。生き馬の目を抜くようなサイゴンのシクロドライバーとは,雰囲気がまったく違う。なので,お互い片言の英語で喋ってみる。
 「Where you go?」
 「To my hotel.」
 「O.K, plese get on.」
 とはいうものの,もう2ブロックも歩いたら宿なんだが。ああ,そうだ。夕涼みがてらハン河沿いにバクダン(Bạch Đằng)通りを流してもらうことにしようか。のんびりとシクロに揺られるのも,悪くはない筈だ。
 ぱっぱっと埃を払ってくれた座席に腰を下ろす。僕が落ち着いたのを振り返り確認し,軽い軋み音を残してシクロは動き出した。

 ホイアンもそうだが,南国の夕方,川沿いの道はそよ風が涼しくて気持ちがいい。
 立派な並木,川に張り出したコンクリート岸の上に並ぶレストランやビヤホイ。歩道は屋台が占拠していて,そぞろ歩きする人たちが冷やかしたり,立ち食いしていたりする。
 ちょっと停めてもらおう。小公園風にベンチなどがあしらわれたスペースに行ってみた。河面が開ける。宵になりかけた空を映す水は青銀灰色,細かに浮かぶ縮緬皺が美しい。立ち漕ぎの小舟,交差した櫂を両手で器用に操って漕ぐ小舟が航跡を残しながらゆっくりとこちらにやってくる。眺めていると時間が経つのを忘れてしまいそうだ。
 再びシクロは進む。のんびりと,生き物としての人間にちょうどふさわしい速度で。ドライバーと合わせて二人分の体重を載せた,重いシクロだからこその速度だ。自分で漕ぐ自転車では,うっかりするともっと速く走ってしまう。
 ゆったりと楽に座ったままで,風景をじっくりと眺められる。こんないい乗り物がサイゴンで安心して乗れなくなったのはかえすがえすも残念だ。

 夕涼み空間の雰囲気が消えて,武骨な塀や建物が見えるようになるとバクダン通りは終わり。カーブしてそのままドンダー通りに名前を変える(現在は3 Tháng 2通りに変更されたようだ)。
 空を見上げた。月がぼんやりと白く浮かんでいる。ヤクザな一眼レフでも風情のある写真が撮れる,かもしれない。後ろを振り向いてまた停めた。カメラを構えてああでもないこうでもない,と構図をひねる僕を,ドライバーはにこにこしながら眺めている。
 もう薄暗くなってるというのに,路上でサッカーを始めた連中がいる。いや,サッカーというよりは球の蹴りあいだ。時々自動車が通りかかるとさあーっと歩道に引き揚げ,またわらわらっと車道に広がって歓声を上げる。楽しそうなのはいいが,蹴り損なって僕の方にボールを飛ばさないでくれよ・・・。

 そろそろいいか。宿まで戻ってくれるかい?
 「O.K.」
 走り出したのは,バクダン通りと一つ違いのチャンフー(Trần Phú)通り。
 「Why don't we return the Bach Dang street?」
 「Because oneway.」
 なるほど。そういえば,来る時も車は一方向にしか走ってなかった。違う方向からハン河を眺めようと思ったんだが,残念。ヴェトナムでは,広い2車線の通りでも一方通行ということが多いので,時々戸惑ってしまう。
 ・・・そういえば,この辺りは前に来た時,ガイドブックに載っているレストランを探して右往左往したところだ。今思えば,思いつきで動いてしまう方向音痴を発揮して無駄に歩き回らずに,素直にシクロを拾えば良かったのだ。ちなみに,結局目当ての店は見つからず,適当なところに入ったわけだが。
 こうして走ってる間にもまわりはどんどん暗くなって,濃い藍色の空を四角張った建物の影が切り取る。ヘッドライトにテールランプが流れる道。豊かな声調で歌うように聞こえるざわめき。・・・唐突に「異国に今いるんだなあ」という感慨が湧いた。
 通りすがりに,バインミー(Bánh Mì)の屋台を見つけた。夜食用に,一つ買って帰ろう。ガラスケースの中の食材は,特に奇を衒ったようなものもなく。玉葱,胡瓜,レバーペースト,香菜,ハム,酢漬けの人参,クリームチーズなどなど。
 「香辛料も全部入れて!」と注文するのを傍で聞いていたドライバーが,けっこう辛くなるけど大丈夫か?と心配してきた。なんだかいいやつだな。
 宵闇のダナン大聖堂。山型の正面の上にぽっかり浮かぶ上弦の月。幾つかの景色を封じ込めたカメラとできたてのバインミーを膝の上に置いた僕を,シクロは宿の前に連れて戻った。
 さて,料金は?(普通は,乗る前に交渉して決めるものだ)
 「As Your heart.」
と言われても困る。相場はどのくらいなのか?と試しに尋ねてみると。
 「15,000~20,000 dong.」
 ふっかけるかと心配したのだが,僕にとっては妥当な値段。見た目どおり,実直な性格らしい。
 ・・・ありがとう。楽しかったよ。


ハン河の小舟

宵闇のダナン大聖堂

Google Map, Vietnam(1998.03)




  1. 2015/06/25(木) 14:37:16|
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No.4367:ダナン(Đà Nẵng)を巡って10

 夕方近くなった。泊まっているĐại Áホテルの部屋で涼んでいた僕は,またぞろ外に出たくなってきた。ちょいと街歩きとしゃれこもう。
 しかし,歩き始めると,日は傾いたとはいえ気温はまだまだ暑かった。もう休みたくなってきた。どうしようか・・・あ,アイスクリーム屋の看板が僕を呼んでいる。
 店先の低い椅子に座り込んで,1つ所望。・・・どういうわけかヴェトナムの露天の椅子は,日本の風呂場にあるのと同じ低い腰掛けが使われているのだ。小柄なアジア系ならともかく,大柄なアフリカ系,欧米系が座るとほとんど地面に座っているのと変わりないように見えてしまう。
 にこりともしないで僕の注文を聞いた店番の初老の女性は,むっつりしたまま奥に姿を消した。何やらごそごそとやっていたが,しばらくすると幾つかの塊を持ってきた。カウンターに置いてあった板の上に乗せて,包丁を構えていきなりバンッ! 予期せぬ轟音に,僕は少しだけ椅子から飛び上がった。
 塊の正体はKem------凍ったアイスクリーム。それをサイズに合うように叩き切っているわけだ。豪快というか,無頓着というか。
 音がやむと,みかけは立派な喫茶店風のガラスの器に,それなりにきちんと盛られて運ばれてきた。中身はチョコ,ストロベリー,ココナッツとドリアン(?)の4種類。それに,昔懐かしいウェハースが2枚。
 叩き切っている間に,こちこちのアイスクリームは気温で柔らかくなり,僕がスプーンを差し込む頃にはちょっと固いかな?という程度になっていた。ある意味,合理的?

 角を曲がって公設のハン市場(Cợh Hàn)前の通りに入った。
 市場,とは言っても,ヴェトナムの市場は日本で想像するのとは少し違う。大抵は2~3階建ての,コンクリート造りの建物で,その中が3m四方くらいのスペースに小さく区分されて,そこに商人たちが品物を所狭しと並べているのだ。もちろん,扱う品目によってグループ分けされているが。
 当然,周囲は人通りも多くて,ざわめいている。広い歩道も店開きした物売りの並べる品物と,立ち止まって品定めする客に塞がれて,まっすぐ歩けない。ここは素直に車道に降りよう。どうせ通るのはシクロかバイクがほとんどだ。
 最初は,ヴェトナムのアイドルグループ「アオ・チャン」のカセットでも探そうかと思ったのだけど,この喧噪の中,目的の音楽関係の売り場を見つけるのも難しそうだし,人に酔ってしまいそうだったので,断念。市場は,外からちらりと覗くだけで通り過ぎた。

 しばらく行くと,街角にシン・トー(Sinh Tố)の店があった。シン・トーとは,サトウキビを搾ったジュースのこと。見た目は悪いが,とてもおいしいジュースなのだ。このお店でも,大勢の女の子たちがおしゃべりしたり笑ったりしながらストローをくわえている。僕も,久々に飲もうか。
 分厚いガラスの縦長コップに緑色がかった泥色のジュース。中にはかち割り氷がたっぷり。グラニュー糖のようなさっぱりした甘さに,絞られたライムの酸味が効いて,なんとも涼しい味わいだ。歩いて少し汗ばんだ時などに飲むと,ほっとする。
 他の客が飲み終わったコップを店主らしい老爺が片づけて歩く。どうするのかなと見守っていたら,路上に置いたバケツの水に2,3回じゃばじゃばっとくぐらせて,はいおしまい。特に拭くこともなく,また並べていく。・・・まあ,運河の水で洗うというバンコクの水上コーヒー売りよりは,ましか。

 ハン市場からまっすぐ伸びる通りからイェン・バイ(Yên Bái)通りに曲がる。時間は17時20分。通りに面した中学校だか高校だかは折しも下校時間。校門からどどっと制服姿の男女生徒たちが吐き出されている。
 シクロ,はたまた迎えのバイクに乗って家路につくのもいるが,ほとんどは徒歩か自転車。これがまた,日本の同年代と同じく,群れてなかなか動かないのだ。ハッキリ言って通行の邪魔である。途中で買い食いなんかもしてすぐ立ち止まるし。
 わあわあきゃあきゃあ,かしましい小集団の波をかき分けかき分け,何とか宿の近くまで戻ってきた。
 空は大分暗くなってきた。歩いたおかげで,少しお腹が空いたようだ。今日の晩飯もCơm Binh Dân(定食屋)に入ろう。
 きょろきょろと手頃な店を探しながら歩いていると,「Hallo!」のかけ声。声の主は,シクロのドライバー,ドゴール帽をかぶった青年だ。乗らないか?の仕草だが・・・
 「No, no. I want to eat.」
 ご飯をかきこむ真似をして見せて,ちょうど見つかったCơm屋に入った。
 さて,何を食べようか? ガラスケースにずらりと並んだ琺瑯引き洗面器の中に盛られた総菜たち。ここもけっこう品数は豊富だ。迷いながら,ハム,ゆで卵のニョクマム煮つけ,青葉の野菜の煮物,そして肉詰めニガウリの入ったスープの4品を指差して注文。しめて8000ドン(ざっと80円)也。
 店によっては,大きな丸皿に御飯をよそって,そのまわりに総菜を添えて出すというパターンもあるのだけれど,ここはちゃんと小皿に分けてくれた。1皿にまとまっているのは,スプーンでごちゃごちゃに混ぜて新たな旨味を追求するという楽しみもあるが・・・見た目がよくないのは確かだ。
 見込んだとおり総菜はうまくて,満足。



ダナン
Google Map Đà Nẵng, Vietnam(1998.03)




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Pet Shop Boys/Can You Forgive Her?[★★★]
  1. 2013/02/04(月) 09:37:53|
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No.4157:ダナン(Đà Nẵng)を巡って10

 大仏の寺「光明寺(Chùa Quang Minh)」を出る頃,太陽は少し傾き始めていた。ドライバーは,僕を後ろに乗せたバイクをダナン市街へと走らせる。
 北行してハン河(Sông Hàn)沿いのバク・ダン(Bạch Đằng)通りに入る。幅広い河の岸には立派な並木が続き,歩道には屋台が連なる。もっとも,まだ夕方前の気怠い時間とて,活気とはほど遠い。茂った枝が落とす影に,犬がくったりとのびて眠っている。
 そんな姿を後目に,バイクは直進する。道なりにぐーんと曲がって,ハン河の水面から離れた。街路の名前はドン・ダー(Đống Đa)通りに変わる。道幅広く,割とこざっぱりした通りだ。
 と,いきなりバイクは右手の小路に進入した。吹き抜ける風は生臭さを乗せている。
 それも道理,着いたところは魚市場だったのだ。午後も4時近くとなるともう市の喧噪はとっくの昔,後片付けさえも終わりかけて人影もあまりない。赤みを帯び始めた光の中,そこはかとない寂しさが漂っていたりする。

 朝から午前中はすごい賑わいなんだよ,とドライバーが説明してくれるが,確かにそうだろう。至るところに白く乾いた魚の鱗が落ちていたり,魚箱が乱雑に積み上がっていたり,とその喧噪の名残りは至る所に残っている。
 もの寂しさに浸りながら眺めている僕の手に,誰かが触れた。小さな男の子だ。嬉しそうに笑いながら,数時間前には魚がずらりと並んでいたとおぼしい台の上に上がろうとする。
 「だめだよ,そんなことしちゃ」
 英語でそう言ったのが通じたのか通じないのか,相変わらずきゃっきゃと笑いながら一人で遊んでいる。
 きっと,近くで後片付けをしている誰かの子供なのだろう。親の仕事場で遊ぶ子供。そうして,自然に少しずつ仕事を身につけてゆく。

 タイン・ビン・ビーチ(Bãi Tắm Thanh Binh)はここから近い。といっても,直行できる道はないので,一度通りに戻って別の大きめの道から入る。舗装が砂に変わるともうそこには海が見えた。
 早速,渚に向かって歩き出すが,実に歩きにくい。乾燥した砂はとにかく粒が細かくて,踏み出した足がずぶずぶと沈んでしまう。よろけながら不器用に歩く僕を尻目に,ドライバーは慣れた足取りでさっさと波打ち際に着いてしまった。
 やっと潮に濡れて締まった砂地までたどり着いた。地元の子供たちが楽しげに泳いだり水遊びしたりしている。・・・が,あまり水はきれいには見えない。

 ビーチは西に向かっているので,傾いた日の光できらきら輝いて眩しい。ずっとのびる砂浜と沖合いの島を撮ろうとカメラを構えたら,それまで遊んでいた中学生くらいの少年たちが一斉に立ち上がった。「いぇーいっ!」とばかりにポーズをとる。どこの国でも,この年代の少年たちはこういうことをやりたがるらしい。
 ドライバー曰く,このビーチにはダナン市街からの下水が流れ込んでいるので,自分は泳ぎたいとは思わない,泳ぐのなら郊外に出た方がいい。
 現に,海辺に建ってるホテルらしい建物からも排水が直接流れ込んでいるのが見える。茶色味を帯びた海水を見ると,確かに僕も泳ぎたいとは思わない。砂そのものはきれいなので,パラソルの蔭などでのんびりするにはいいかもしれないが。
 泳ぐのにはあまり向かなくても,釣りにはよいらしい。護岸代わりに積み上げられた岩の突端,座り込んで釣り糸を垂らす男たち。傍らのバケツを覗き込んだが,ちっぽけな魚しか入っていなかった。今日は不漁かい?


 ・・・Google Mapで見ると,この海岸線は開発がかなり進行しているようだ。
 当時はなかった海沿いの幅広い道路が開通し,魚市場やビーチのあたりは既に埋め立てられている。
 大好きな国が発展するのは嬉しいことだが・・・


ダナン

ダナンの男の子

ダナン
Google Map Đà Nẵng, Vietnam(1998.03)




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スキマスイッチ/光る[★★★]
  1. 2012/11/05(月) 13:30:48|
  2. ダナン,ホイアン(越南)
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No.4031:ダナン(Đà Nẵng)を巡って9

 光明寺(Chùa Quang Minh)の拝観も済んだので,今度は本命?の白亜の大仏だ。
 庭を横切って境内の小高い位置にある大仏へ。ドライバーによると中に入れるそうだ。入口の鍵の管理は,なぜか寺の僧侶ではなく,境内に住む俗人が行っているらしい。もしかすると,大仏そのものは寺の信者の寄進によるものなのか。
 その家人が鍵を持ってくるのをしばらく待つ。境内は植木鉢と木が豊富で,プルメリアも咲き誇って,風に甘い匂いを漂わせている。極楽の似姿の追求。
 がちゃんと扉が開いた。中は・・・何にもないがらんどう。隅の階段を登ると何層かの広間が重なっている。どこものっぺらぼうで,ペンキの匂いもこもっている。おまけに上に行くほど空気が淀んで暑くなるのには参った。
 一番上は5層か6層くらいだったろうか。ちょうど眼のあたりになるらしい。・・・が,背の届く位置に窓があるわけではなし,期待していた眺望はまったくだめだった。
 一体何のために大仏の中に入れるようにしてあるのだろうか。或いは,資金不足でまだ内部には手が回っていないだけなのか。信者の集会場や展示館にでもするのだろうか? 謎の多い大仏ではある。

 暑かった。外に出ると,思わず深呼吸をしてしまった。外も暑いには違いないが,暑さの質が違うのだ。そんな僕を,ドライバーは木陰にある俗人の家に導く。
 鍵の管理料というか,案内料というのかわからないが,そこにいた青年に1$ほど支払った。出されたお茶を啜りながら会話してみると,俗人とはいいながら肉・魚は一切食べない菜食主義で,戒律を守っている篤信の一家のようだ。
 一般的に,ヴェトナムの仏教徒には月に何度かの斎戒をきちんと実行し,その時には生臭の魚肉を避ける人々が多い。「戒律」というものが在家の意識から消え去ってしまったに等しい日本とは,大きな違いだ。「戒」もなく「法」を知ることもなく,「拝み」はするが「祈る」ことはしない。水のように淡々とした「信仰」。それがいいと思うか悪いと思うかは個人の考えだが,僕が違和感を覚えてしまうのは否定できない。・・・それはともかく,斎戒のおかげで,ちょっとした町には精進料理の食堂があり,ヴェジタリアンの欧米人観光客がその余慶を蒙っている。

 ・・・いつかおしゃべりも途絶えて,ドライバーは椅子の背にもたれてうつらうつらし始めた。暑熱の午後にはそうやって過ごすのが一番だ。
 風に乗って甘い匂いが漂ってくる。プルメリアの花とは違う,食欲と結びつくような甘さ。匂いの元はジャックフルーツだった。太い太い幹から直接ぶら下がった赤ん坊ほどもある実。いつも思うのだが,あれは強い風で人の上に落ちたりしないのだろうか? 頭を直撃すると冗談ごとでは済まない重さだが。
 足下でかさっと音がした。覗き込んだら目が合った。子犬だ。体の割にえらく頭の大きいところを見ると,まだ相当幼い。ヴェトナム人にそっくりな形の目でじぃっと僕を見つめていたが,「あ,もうだめ,ねむい・・・」ぽすんと頭を落として眠り込んでしまった。か,かわいいじゃないか。

 こうしていくつか見て廻ると,どの寺の御本尊も後光にネオンなどのエレクトリックな効果を採用している。日本文化の感覚ではかなり馴染めない,というか結びつかないものである。
 どこのお寺だったか忘れたが,僕が拝そうとしたら僧侶が後光のスイッチを入れてくれた。それはいいのだが,放射状に発散すべき後光が,どういうわけか逆に外側から御本尊に向かってちくちく刺さっているのだ。??? 「あ,まちごうた。えろうすんません」と言ったかどうかはわからないが,慌ててスイッチを切替えに走る僧侶。
 他にも頭の部分を中心にくるくる螺旋状に光の筋が回るタイプとか,単に蛍光灯で後光模様を裏から照らすだけのものとか,いろいろある。もちろん,何もないシンプルな御本尊もあるが・・・。
 宗派による違いもあるとは思うが,日本とヴェトナムの美意識の違いを如実に感じる場面だ。

ダナンの大仏
光明寺の大仏。
前の香炉が巨大なので小さく錯覚するかもしれないが,
左下の階段や樹木を見れば大きさの見当がつくだろう。
内部は6層のフロアに分かれているが,この当時はがらんどうだった。
コンクリート製だが意外とオーソドックスな像容。

ダナンの幼犬
足下から見上げてきた幼い犬。
眠くて細めているせいか,目の形がなんだか人間っぽい。
この直後に,見事に陥落。可愛らしすぎる。



Google Map Đà Nẵng, Vietnam(1998.03)



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The Shanghai Restoration Project/Call Me Home[★★★★]
  1. 2012/09/16(日) 09:29:27|
  2. ダナン,ホイアン(越南)
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No.3856:ダナン(Đà Nẵng)を巡って8

 休憩中で拝観できない寺が多いのを気づかってか,ドライバーが声をかけてきた。
 「There is the big Buddha. Do You want see?」
 ヴェトナムで大仏? これは見てみたい。連れていってくれ。え? 郊外だって? いいよいいよ。
 というわけで,バイクは走り出した。ずっと西行すること20分くらいで,その寺に着いた。確かにコンクリートの蓮の花に座った大仏が陽光に輝いている。青い空をバックに鎮座する白い姿。中に入れたりするのだろうか?

 門をくぐると植木鉢のたくさんある庭・・・と思ったら植木屋の店だった。まったく紛らわしい。
 寺へと向かう僕らを見て,ちょこちょこと男の子が出てきた。
 何かな,といぶかる僕に,片言の英語で「これ買って?」
 差し出したのはなぜか1ドルの銀貨。あの大きくてずっしりと重いやつだ。
 ヴェトナムまで来て1ドル銀貨を買わなければならない理由はない。たぶん,観光客などからもらったもので,そのままでは使えないからドンに交換して欲しかったのだろう。この子が生活に困っているような家族の子であれば快く交換しただろうが,特にそんな風もないので,笑って断ることにする。

 この寺,光明寺(Chùa Quang Minh)の本堂は装飾たっぷりだった。
 透かし窓,屋根上の龍に鳳凰,庇と屋根の間の小壁には仏画が描かれている。2階ベランダの柱には龍まで巻きついていたりして,まるで日光の東照宮のよう。
 ふと,ガイドブックで見たカオダイ教の総本山や,以前メコンデルタのミトー(美湫 Mỹ Tho)で訪れた「ココナツ」教団を思い出した。
 こちらは休憩中ではないようで,建物の中に入らせてもらった。いきなり階段を上がったので,1階には何があるのかよくわからない。僧坊か寺務部門なのかもしれない。2階は本堂になっていて,御本尊は阿弥陀三尊。なぜかその前には横になった涅槃釈迦像。
 降りる階段横の部屋からシャカシャカとミシンの音がした。ちらりと覗くと,数人の僧侶が踏んでいる。縫っているのは地味な色の僧衣。ちょっとお寺の生活を垣間見たような気分だ。

ダナンの寺
 光明寺の本堂全景。
 総二階建てのブロックのような形。屋根には龍が乗り,柱にも龍が巻きつく。
屋根の下の飾り壁には仏陀の物語が描かれている。
大仏といい,この本堂の装飾といい,資金の潤沢な寺らしい。
 右端に見えるプルメリアが風に香りを振りまき,雰囲気は悪くない。


Google Map Đà Nẵng, Vietnam(1998.03)



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KAZAKY/LOVE[★★★★]
  1. 2012/07/02(月) 12:36:00|
  2. ダナン,ホイアン(越南)
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No.3654:ダナン(Đà Nẵng)を巡って7

 以上の2寺はガイドブックをもとに僕が指定したところだが,ここから先はドライバー任せになる。しばらく市内を走って,また一つの寺に着いた。バオ・クァン寺(Chùa Bảo Quang 寶光寺)だ。
 屋根に鳳凰を戴いた細やかな造りの門には「寶光尼寺」の額。その向こう,前庭中央に立つ真っ白の観音。本堂に上がる階の脇を固めるモザイクの龍も,桃色や群青色の磁器の欠片を使っていて,龍でありながら愛らしい。いかにも尼僧が住まっているような。
 パステルブルーに塗られた本堂内部の壁は涼しげだ。その御本尊は・・・何だろう? 立像で頭を丸めた僧形,日本で見たら地蔵菩薩と判断されるような像容。左右対称に飾られた壇の前の小さな卓には,お遍路さんが持つような鈴。
 それはともかく,正座して日本式に拝していたところ,脇の扉が開いて年老いた小柄な尼僧が現われた。ドライバーが「住職です」と耳打ちする。
 行い澄まして年経たご住職は,庵主さまという表現がぴったりのいいお姿。「どちらから来られました?」「日本から」「それはまた遠くから」・・・ドライバーのヴェトナム語通訳を介して2,3の言葉を交わす。表情は物静かで柔らか,男僧とはまた違った品位がある。
 床に座って経巻らしきものを広げるご住職。今から勤行を始めるらしい後ろ姿に黙礼して,そっと外へ出た。

 2分も走らないで,また下ろされた。
 今度の寺はちょっと変わっていた。大きな2階建ての本堂の上に五重塔が乗っているのだ。入口は2階で,下から幅の広い階段が取りつく。ホーチミン市にあるヴィン・ギェム寺(Chùa Vĩnh Nghiêm 永厳)の本堂の上に塔を乗せたような感じだ。色は無論ヴェトナム人好みのクリームイエロー。奇抜な形だ。
 階段の手すりに施された龍のモザイクは,先ほどの尼寺のよりも力強い。だがちと荒削り,かな。目の部分がよく見ると茶碗の底,高台の部分だったのには感心。フエのカイディン(Khải Định 啓定)帝廟の陶磁器モザイクといい,この龍の目といい,ヴェトナム人はこういう意匠上の細かいアイデアに富んでいる。
 残念ながら,本堂の扉は閉ざされたまま。ここも休憩中らしい。寺名を聞くのは,うっかり忘れてしまった。

ヴェトナムの寺
バオ・クァン寺の門。お寺の門は,どこもこんな様式。
寺男?信徒?らしい人が,門前を掃き掃除中だった。

ヴェトナムの寺
壁の色などを除けば,あまり違和感がない。
ご住職は,鈴を載せた机の向こう,檀の手前で勤行を始められた。

ヴェトナムの寺
本堂+五重塔という変わった様式。
真ん中下に,龍の尻尾だけ見えてたり。

二寺の龍装飾画像は,龍二景



Google Map Đà Nẵng, Vietnam(1998.03)



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東儀秀樹/水-Current-[★★★]
  1. 2012/04/02(月) 13:00:28|
  2. ダナン,ホイアン(越南)
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No.3613:ダナン(Đà Nẵng)を巡って6

 ・・・待ち合わせの時間だ。外にエンジン音が止まったので,コーヒー代を支払って,カメラバッグを肩に。かんかん照りの下,再びバイクの後ろに跨がった。これからダナンの寺院をいくつか廻ってもらうことにする。
 最初に訪れたのはファップ・ラム寺(Chùa Pháp Lâm:法林寺)。なんでもダナンの仏教総本山とのことで,相当格式が高いらしい。
 濃い目のクリームイエローに塗られた壁と飾り気のない二層の屋根。本堂(大雄宝殿というそうだ)の前,長方形の石畳の庭には鉢植えの木が規則正しく整列。フエのティエン・ムー寺といい,石畳庭の鉢植え,場合によってはトピアリーというのはベトナムの寺の「お約束」らしい。
 境内は昼下がりの眩い光の中,しぃんと静まりかえっている。本堂の扉も閉ざされたまま。まるで眠り込んでいるかのようだ。木陰で休んでいる間にドライバーが横手の建物に聞きに行ってくれた。その結果は・・・「It's a breaktime, now.」
 お昼休みでは仕方がない。人に言って開けさせようか?という彼を止めて,写真だけを撮る。庭の片隅に立つ白堊の観世御音菩薩立像は,まるでマリア観音のような女性的な造型だった。
 ちなみにドライバーは,観音のことを「Lady Buddha」と表現していた。慈悲の象徴とはいえ一応男性なのだから「Lady」はないだろうと思うのだが・・・仏教徒ではない欧米系観光客にはその方がイメージ的にわかりやすいのだろう。

ダナンの寺
ファップ・ラム寺の本堂。
ヴェトナムの寺の本堂は,大抵こんな風にタイル敷の中庭と
そこに規則正しく置かれた植木鉢,もしくはトピアリーの背後にある。
建物の色もこんな感じの鬱金色に近い黄色なのが普通だ。
日本でいえば糞掃衣の色?

ダナンの寺
ファップ・ラム寺の境内に立つ観世音菩薩立像。
材質がまるで白磁ででもあるかのように,南国の太陽を浴びてまばゆい。
前に据えられた巨大な香炉には,太い線香が何本も燻っていた。



 次はフォー・ダー寺(Chùa Phổ Đà:普陀寺)。
 臨済正宗というから,禅系の寺になる。庭はファップ・ラム寺と似たりよったり。本堂の横手の池の傍にはやはり白堊の観音立像。日陰と艶やかな白が相まって,涼しげな空気を漂わせていた。
 ここも昼休みかもしれないと危惧したが,幸い開いていて快く招じ入れられた。
 本堂の右手から靴を脱いで上がると,若い僧侶が案内してくれた。母屋の裏をぐるりと廻って左手の小部屋。薄暗い中,たくさんの写真が壁と祭壇に祀ってある。先師たちだそうだ。
 臨済禅ということは,やはり修行の一環で公案などもやったりするのだろうか? 声調が6つもあって歌うようなヴェトナム語で公案・・・「東海に魚あり,尾もなく頭もなく中の四骨を断つ」??? ・・・どうも想像がつかない。
 ヴェトナムの寺院としては割とおとなしめの装飾に囲まれた(とはいっても日本から見たら派手なのだが)御本尊を拝すると,旅の最中でざわついていた心が何だか落ち着いたような気がした。

ダナンの寺
フォー・ダー寺の観音立像。
池の傍に立つせいか見た目も涼しげで,陽光に灼かれた目も安らぐというもの。
天蓋のように広がる枝が葉を茂らせていたら,もっとよかったのだけど・・・

ダナンの寺
フォー・ダー寺の本堂。
ファップ・ラム寺よりも規模は小さいけれど,庭に緑が多く落ち着ける感じ。



Google Map Đà Nẵng, Vietnam(1998.03)




BGM NOW
Asia/Wildest Dreams[★★★★]
  1. 2012/03/14(水) 19:08:44|
  2. ダナン,ホイアン(越南)
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No.3557:ダナン(Đà Nẵng)を巡って5

 Cơm Bình Dân(定食屋)はどこも狭い。4mの間口に6mくらいの奥行き。そこに低いテーブルと椅子が並べられ,店先もしくは店の奥に惣菜を入れた洗面器めいた器がいくつも並べられているのが普通だ。客が溢れる混雑時には,店先の路上にテーブルと椅子を出し,露天で食べることになる。天気が悪くなければ,これもまた一興。
 幸い,僕が入った時にはもうピークは過ぎていたのか,それともこれからだったのか,とにかく空いていたので,店内のテーブルでのんびりとできた。
 惣菜の中から僕が選んだのは,茹でエビ,イイダコ(?)の煮物,香菜たっぷりのスープ。皿に盛られたご飯を碗によそって,いただきます。
 好きな総菜をご飯に載せては,スプーンですくって口に運ぶ。時には混ぜてみたり。・・・イイダコは日本の煮つけにそっくりの味だった。

 食後にコーヒーを飲みたくなった。カフェを探そうかとも思ったが,ホイアン以上に暑い昼日中,あまり歩き回りたくもない。実際人通りも少ないのだ。結局宿に戻り,1階のカフェ兼レストランでCà Phê Sữa(練乳入りホットコーヒー,いわゆるヴェトナムコーヒー)を頼む。
 隣のロビーでは,暇を持て余した従業員たちがカード遊びに興じていた。賭けてやってるのかどうかは判然としないが,わあわあきゃあきゃあとえらく盛り上がっている。少しうるさくもあるが,食後の眠気覚ましにはなる。
 運ばれてきたアルミのフィルター。コーヒーの色が染みついて黄銅色を帯びたそれは,キッチュなオブジェのようにも見える。透明なガラスコップにぽたりぽたりと溜まってゆく黒褐色が練乳と混ざり合って濃厚なコーヒー色の渦を作るのを眺めていると,時が経つのをつい忘れる。


ダナン
Google Map Đà Nẵng, Vietnam(1998.03)




BGM NOW
Vivaldi/Violin Concerto in Gm, "Summer", Op.8/2, RV315
(Claudio Scimone/I Solisti Veneti, Piero Toso(Vn))[★★★★]
  1. 2012/02/16(木) 17:19:12|
  2. ダナン,ホイアン(越南)
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No.3510:ダナン(Đà Nẵng)を巡って4

 近道,とばかりにバイクは露店の立ち並ぶ狭い道を通り抜ける。道,というよりは路地。どこかに引っかけはしないかとはらはらするが,バイクドライバーはどこ吹く風で,運転している。
 ぱっと開けたそこは,既に博物館の前。プルメリアの香りが漂う門前で僕を下ろした。

 建物の左の翼にミーソン(Mỹ Sơn)遺跡の彫刻がある。
 ガネーシャは相変わらず窓際で川風と日射しを浴びて座っている。その顔はにこにこと笑っているようだ。大きな立像もあるが,僕はこちらのちんまりとした座像が好きだ。滑らかに磨かれた濃色の石の肌。すべっこいそれは,触れると太陽の温もりをそっと返してくれる。
 遺跡の祭壇を飾っていたらしい人々の姿のレリーフ。笛を吹く人,何か命令する人,テーブルの前でくつろぐ姿,クッションにもたれて眠る人,腰をくねらせて踊る女たち。細かい部分は風化してしまっているが,生き生きと描かれている。上半身裸の腰布姿。結った髷。確かにチャンパ王国の人々はインド風の暮らしをしていた。
 シヴァ神の立像。正立した彫像は,前腕部が失われているせいもあって,動きに乏しい。殆ど,永遠を指向したエジプト彫刻のようでさえある。その顔は厳めしく,前を見据える視線は力強い。「神」の現前。
 そして,王らしい立派な人物の彫刻。・・・ミーソンの遺跡にはまだまだたくさんの彫刻が風雨に晒されて残っていた。いくつかは,無事な祀堂の中に保護されてはいたが。
 僕は祀堂の壁面に彫り込まれた女人の立像レリーフを思い浮かべた。彼らは,ここに収められて「余生」を送るのと,元からある場所で聖山マハーパルヴァタに見守られつつ朽ちていくのと,どちらを望むだろう?

 僕と前後して,眼鏡をかけた学生風の女性が彫刻を渡り歩く。熱心にメモをとっているところを見るとチャム美術を研究しているらしい。さっと適当に眺めて出てゆくパターンが多い中では,珍しい存在だ。頑張ってチャム文化の研究を発展させてほしいものだ。
 前回来た時にはなかった展示が一つ増えていた。ミーソン遺跡の復元ジオラマだ。何百年にもわたって造営され続けた広大な遺跡。ヴェトナム戦争さえなければ,そのかなりの部分を今も目にすることができた筈。そう思うと,このプラモデルめいたちゃちなジオラマの前で溜息が漏れた。

 博物館の母屋と右翼には,中部の他のチャンパ遺跡------かつての都チャキェウや聖地ドンズォン------の彫刻類が展示されている。チャンパ王国では,ヒンドゥーのシヴァ神以外にも上座部仏教も信仰されていたため,仏教彫刻のスペースもある。
 その中では,高い台座に堂々と座った仏陀が目を惹く。日本の仏像彫刻では,儀規に則って両手は何らかの印を結んでいるものだが,これは普通に人が腰掛ける時のように手を両膝の上にちゃんと置いている。仏を表わす螺髪と白毫がなければ,締まった表情も相まって,うっかりすると権力者か誰かの彫像かと思ってしまうだろう。
 これも,シヴァ神立像と同様,動きを感じさせない。群像を描いたレリーフが精彩に富んだ表現をしていたのと対照的だ。人は躍動し,神や仏は鎮まる。

 どこかの遺跡の祭壇がそっくり復元されているのもあって興味深いが,僕の趣味からすると,ミーソンのものほど面白くはない。ガルーダや猿のレリーフのように,より精巧であったり,部分的にはいい味を出していたりはするのだが・・・。他の遺跡を実地に訪れて観察すれば,少しは見る目が違ってくるのだろうか。
 そう思ったが,後に別の遺跡を訪ねてもその印象は変わらなかった。やはり盛期と凋落期の違いなのだろう。繊細であっても力感が足りない。どこか諦めたような雰囲気が漂っているように思う。
 ヴェトナム主要民族のキン族が建てた北部の中国風歴代王朝と抗争し,次第に圧迫され,聖地も放棄して南下縮小していったチャンパ王国。
 その心性を思いながら,バイクタクシーの待つ門前へとゆっくりと歩いた。

 仲間とお喋りをしていたドライバーが立ち上がった。笑顔で「次はどこへ行く?」と聞いてきた。
 なんだか腹が空いてきた。とりあえず,ランチタイムだ。宿の前で下ろしてもらう。2時間後にまたここに来るように言って,僕は隣のCơm Bình Dân(小さな食堂,準備された惣菜から好きなものを選ぶ一種のビュッフェ形式)の客となった。


Google Map Đà Nẵng, Vietnam(1998.03)




BGM NOW
SINGER SONGER/初花凜々[★★★★]
  1. 2012/01/24(火) 10:06:55|
  2. ダナン,ホイアン(越南)
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No.3457:龍二景

 今年は辰年・・・あちきの干支でもありんすなあ。
 とりあえず,過去撮り溜めた画像の中に龍がありんしたので,アップしてみやんす。


龍

龍



 どちらも,ヴェトナム中部の街ダナンの仏教寺院。
 基壇に上る階段脇を龍が守りゃんす。
 ご覧の通り,わざわざ陶磁器や瓶を砕いて漆喰やセメントに埋め込む,ヴェトナムお得意のモザイク。
 上のは,尼寺だけあって色使いもモザイクの作りも細やか・・・オキャマとしては,こちらの方が好みでありんす(笑)



BGM NOW
Bruckner/Mass No.2 in Em, WAB 27: II. Gloria (Allegro)
(Eugen Jochum/Symphonieorchester und Chor des Bayerischen Rundfunks)[★★★★]
  1. 2012/01/01(日) 09:38:57|
  2. ダナン,ホイアン(越南)
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No.2923:ダナン(Đà Nẵng)を巡って3

 2年後。
 同じ季節に,またダナンを訪れた。
 投宿したのは,前回と同じĐại Á(大亞)ホテル。フロントの女性は僕の顔を朧げながら覚えていた。もう2年も経つのに・・・ヴェトナム人の人間に関する記憶力の良さにはいつも驚かされる。
 荷物を置き,カメラバッグを腰に巻いて,市内へ。まず足をどうするか? のんびりシクロという手もあるが,いいドライバーが見つかるかどうか。
 ・・・考えながら外に出た僕に,陽気な「ハロー」。声の主は,バイクタクシーの中年男。これ幸い,とチャーターの交渉に入る。
 廻って欲しいのは,チャム博物館と市内の寺,それに手近なビーチ。1日だから20万ドンでどうだ? そりゃ高い,昼は休みたいから時間制でどうだ・・・とやって,結局1時間あたり2万ドンで落ち着いた。大雑把に換算すれば,2$だ。

 まず行ってもらったのは,カオダイ教(Đạo Cao Đấi 道高台)の寺院。前からこの教団には興味があったのだが,総本山のタイニン(Tây Ninh 西寧)にまで出向くほどでもなかった。宿からさほど離れていないということもあって,今回訪ねてみることにした。
 キリスト教,儒教,仏教などを混交したこの新宗教は1920年代,フランス植民地時代に生まれたもの。カオダイとは「高台」,宇宙を治める至上の神のこと。全ての宗教を統合して,人類を救済するという壮大な宗教で,ヴェトナム国内に公称200万の信者を抱えているそうだ。信者は発祥地の南部に集中しているのだが,中部でもダナンは信者の多い都市らしい。

 パステルイエロー(ヴェトナム人はこの色がお好みらしい)の壁に四角ばったデザインの建物。両翼に四角錐の屋根を頂いた正方形の楼が並び,その壁面には飾り窓が開けられていて,一風変わったリズム感を作り出している。
 刈り込まれた芝生にきちんと整えられた植え込みを配置した庭。新興宗教らしい,清潔なイメージが漂う。
 構内には,礼拝時間ではないせいか,誰もいない。ぐるりと裏に廻って教室風な建物------おそらく日曜学校のようなことをやっているのだろう------まで行ってみたが,人の姿が見当たらないのだ。
 困った。信者でもないのに建物に勝手に入ってもよいものだろうか? 腕組みして悩んでいるところに,さわっさわっと規則正しい箒の音が聞こえてきた。音の方を見やると,白いアオザイを着た中年の男性信者が本堂の廊下を掃除している。英語で尋ねたところ,にこりともせずに顎をしゃくって「入れ」の仕草。
 靴を脱ぎ,ついでにソックスも脱いで床に上がる。石の冷たい感触が気持ちいい。
 ぺたぺたと中に入ると,採光がよくて思っていたよりも明るい。床面は磨きあげられたモザイク風。
 一番奥,2本の柱の間に設えられた祭壇。その後ろには至上神の象徴である天眼------リアルな,おそらくは男性の左目------が,水色の巨大な球体の表面に後光に取り巻かれて描かれている。この教団の教祖は,いったいどこからこんなシンボルを思いついたのだろうか? すべてを見そなわす,という意味では至極わかりやすいのだが。
 2本の柱の間の長押には「Vạn Giáo Nhất Lý(万教一理)」のカオダイ・スローガンの額。ガイドブックに載っていたカオダイ教のポスターの,ヴィクトル・ユゴーや孔子が至上神の前で筆を握る図が,ふと思い出された。
 クッションがいくつか転がっているのは,おそらく礼拝の時に膝に宛てがうなどして使うのだろう。

 拝観を終えて外に出ると,あの中年男の信者は,今度はモップで廊下を拭っていた。軽く会釈して「Cám ơn(感恩=ありがとう)」。厳しい表情が緩んで,にっこり微笑んだ。なぜか嬉しくなった。

 ちなみに。
 ネットでカオダイ教団を検索すると,タイニン省の総本山ツアーレポートなどが多くひっかかる。だが,大抵のものが,この宗教の外見上の派手さと他宗教の混交であるということから「色物」「際物」扱いしているように見受けられる。
 そういうことは,教理とその思想背景などを調べてからにしてもらいたいものだ。真剣に信仰している人々に対して失礼を通り越して無礼であろう。
 こういうものを見るたびに,「信じるもの」を持ち得ない日本人ならではの傲慢さが見え隠れして,やりきれない気分になる。


カオダイ教寺院 カオダイ教寺院内部
Google Map Đà Nẵng, Vietnam(1998.03):クリックで拡大




BGM NOW
高橋洋子/魂のルフラン[★★★★★]
  1. 2011/04/16(土) 09:08:39|
  2. ダナン,ホイアン(越南)
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プロフィール

Ikuno Hiroshi

Author:Ikuno Hiroshi
Self
↑現在  ↓過去の一時期
755860.jpg
広島から沖縄へ移住した100%ゲイ。
年齢不詳に見えるが五十路を越えた。
ハッテンバで出逢った10歳下の相方と
・・・何年目だっけ? でも,いつも
いちゃいちゃ熱々バカッポー実践中。

LC630以来の筋金入り林檎使い。
Power Macintosh 7300
→ iMac(Blueberry)
→ eMac
→ iMac (20-inch, Early 2009)
虎→雪豹→獅子丸
→山獅子→寄席見て
→得甲比丹
そして,満を持してiPad mini!
更に,iPhone6!
ネットはNiftyServe以来の古参兵。

ついでに典型的なB型的性格。
パタリロのギャグは
ほぼ暗記しているらしい。
猫・犬複本位制だったが,
現在は,猫本位制に移行。
芸能・スポーツ以外の雑学王(笑)

HIV関連

読書中の本(2017.May.26~)

honto
時間の古代史 霊鬼の夜、秩序の昼

ISBN :978-4-642-05705-9
三宅 和朗著
吉川弘文館歴史文化ライブラリー(1,836円)

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