
午前6時前。相変わらず霧が深い朝だ。
教会の鐘の音が響く前に,僕はロビーに下りた。既に荷物の山と,次の行き先を思って浮き浮きしている同行者たち。
大きなステンレスポットのジャスミン茶を小さなカップに注いで何杯か飲む。少しは目覚ましになるだろう。
ガイドがやって来て一言。出発前に朝飯を食べましょう,と。
彼の後について,いくつか隣のオブザーバトリー・ホテルの1階食堂へ。十何人もが各々好きなものを注文するせいで,厨房と店員は混乱を極めている。ちなみに僕が頼んだのは,手早く出来そうなバナナパンケーキとコーヒーだ。

食べ終わったらここにはもう用はない。さっさと勘定を済ませて,霧の流れる通りへ。
料理の出ていない人たちもいたのだから,出発までまだもう少し時間はある。ちょっと小走りに,教会の前まで行ってみた。教会の前から始まる路地には,昨日と同様,既に露店も店開きしている。昨日はいなかった豆腐売りもいた。

そろそろかな,とホテル前に戻る。
と,木でできた何かを小脇に手挟んだメオ族の老爺がこちらへ向かって来た。呼び止めて,見せてもらう。横に構えて撃つクロスボウだった。丈夫で,威力もありそうだ。「買うかい?」という風に首をかしげてみせるが,武器を持って帰っても税関で一悶着あるだけだろう。
宿の前に停まったミニバスに乗り込んで,来た時と同じ一番後ろの窓際の席を確保。面白いもので,車が交替したのにほとんどの人間が同じ席に座っていた。
閉まった窓を通してもの悲しい弦の調べが耳に届く。外を覗くと,やはりメオ族の青年が胡弓(二胡)のような楽器を奏でている。これも売り物なのだろうが・・・好奇心には勝てない。
窓から飛び下りて,手真似で貸してもらう。張られたのは2弦。弓はその2本の間に挟まっていて,弦への当て方で一方だけ鳴らしたり,同時に音を出したりできる。胴は竹の筒。左の脇腹に胴を当てがい,水平に倒して演奏する。胡弓のように洗練はされていないが,鄙びたいい音がする。言い値は2ドル・・・かなり食指が動く。だが,荷物になるのでこれも諦めた。
彼はバスが動き出すまで,側でずっと奏でていた。ソ,ド,レ,ミの4音で構成される素朴な調べを。
今度のミニバスは乗り心地もアップ,エンジンも快調。メモもとりやすくて結構だ。急坂・急カーブをすいすいこなして下って行く。
途中にはいくつかメオ族のものらしい小さな集落もある。来る時はうつらうつらしてて気がつかなかったのか,それとも夜遅かったのでもう灯火を消していたのか。
濃紺の衣装を着た男が道路を渡って急な土道を登って行った。肩に担ぐのは鍬。畑がこの上にあるようだ。
道は川の谷筋に沿って下っていく。
対岸の山には棚田と段々畑。半端ではない。こちらの道路と同じくらいの高さから山肌を刻んで,頂き近くまで。あんな高さでは天水に頼るしかないのに,それでも維持できるということは雨が適度に降るということか。サパの盛大な霧といい,このあたりは水に恵まれているらしい。
もっとも,そうやってライステラス(棚田)を作れば植生も変貌するのは物の道理で,まともな木はほとんど生えていない。土壌の保水能力がいくら高くても,大雨が続いたらどうなるのだろう・・・。養分も流出していくだろうに。
僕の疑問をよそに,向こう岸では稲株の残る田に水牛を入れて,刈入れ後に生えた草を食ませていた。ついでにその力強い蹄で土くれを粗々と潰し,耕させている。糞をすればそれも肥やしになるというわけだ。
人家を過ぎると,薄曇りの朝の空気の中,ススキのような丈の高い草が窓の外に増える。臙脂色がかった穂がいくつにも分かれてピンと立っている。他に目につくのは,フジバカマに似た蒼白い花やヒメジョオンみたいな薄紫の花の群生。この色合いは,霧がかった空間によく似合っている。
たいていの山の姿は大きさの割には柔らかくまろやかな形。そこに自然のいたずらで風雨に削り残された石灰岩の鋭い岩峰が加わって,ちょっと面白い景観を見せてくれる。ここヴェトナム北部は中国・桂林の石灰岩地帯とつながっているのだ。
BGM NOW Deep Forest/L'ile Invisible[★★★★★] |
- 2008/03/10(月) 14:01:01|
- 北部(越南)
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