ぱしゃん....っと水の音。下手を眺めると,青年がズボンのまま水に浸かってシャンプーしていた。水浴とともに,これもヴェトナムの田舎ではよく見かける光景だ。・・・麗しき乙女が洗髪する図,というのはいまだ目撃したことがないが。
ずっと上流,流れが蛇行しているところにできた砂地にノン(菅笠)をかぶった女性が二人。座って何やら話し込んでいる様子。日曜日の午後の一時,なんでもない日常がすぐそこに存在している。
ビロードのような光沢の濃い紫色のアゲハが目の前を横切った。何とかカメラにおさめようと追いかけっこを始めたが,敵もさるもの,ファインダにやっと入ったと思ったら焦らすようにひらひら宙に舞う。
・・・そして気がついたら,橋の上からじーっと見られているのだ。きっと今日の夕餉のテーブルで,「あほな外国人が川原でちょうちょに遊ばれてたぜ」なんて話題になるのに違いない。
いい見せ物になってしまったことではあるし,そろそろ撤退しよう。
ずるずると滑りやすい土の坂をよいこらせ,と登って道に出たところで男に捕まった。
「Where came from?」
「Tôi là người Nhật(日本人だよ)」
彼は別に公安でもなんでもない。すぐそこの茶屋兼居酒屋のような小店で仲間とわいわいやっていた一人だ。外国人が一人でふらりとやって来て橋の下でぼけっとしていたのに興味を持ったらしい。もっとも相手が公安でも,別にやましいところはないから平気なのだが。
なけなしのヴェトナム語で返したら,いきなりペラペラペラッと話しかけられたので,日越コミュニケーションシートのお世話になる。
旅行者と地元の人間との間でよくある問答を繰り返して,好奇心が満足されたか彼はにこにこ笑いながら仲間の所に戻って行った。早速酒の肴になったことだろう。
川原でのんびりしている時にはちょうどいいと思った日射しだが,上り坂を歩いているとちと熱い。藍色の長袖民族シャツは容赦なく熱を吸収してくれる。
ボトルの水を飲み飲みゆっくり坂道を登る僕を,自転車の少年がすいすいと追い越して行った。元気だな,と背中を見送る。・・・と,くるりと引き返してきて,一言。
「乗っていく?」
果たして親切心から出たものか,それとも小遣い稼ぎに,という商売っ気があったのかは定かではない。せっかくだが,歩くのは好きだから,ありがとうと言って断った。
- 2008/04/18(金) 09:07:25|
- 北部(越南)
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