時計は既に14時前。そろそろ宿に戻って脚を休めよう。でも,その前に市場で何かお菓子みたいなものを仕入れたい。
少し人が減った雑踏の中を物色して廻る僕の目に,何やら不思議な物体が飛び込んだ。握り拳よりちょっと小さいくらい。果物らしき山吹色の紡錘形。
これが食べ物であることは,たまたま通りかかった男の子が皮を剥いてむしゃむしゃやっていたから間違いない。また子供が食べるくらいだから変な味ではないだろう。
「3つちょうだい」
「1000ドンね(当時で10円弱)」
「そこのバナナ3本と姫リンゴひと袋も」
「じゃ合わせて2000ドン」
どういう計算かはわからないが,まあいい。
数分後,扉明けっ放しで部屋でくつろぐ僕の姿があった。同室のタイ人学者先生はまだ戻ってない。
・・・「くつろぐ姿」とは書いたものの,実はその前にやらなければいけないことがあった。長めの旅行では大事なこと,洗濯だ。
サパは霧が多くて昨日の洗い物が乾き切っていなかったので,まずはそれを取り出して部屋の扉の前に吊ってあった紐にぶら下げる。更にいくつかの服を洗面台で洗って,ぎゅうっと絞ったらその隣に。幸い日当たり抜群,日没までには乾くだろう。
気がつくと,お隣の部屋も扉が開いていた。中にいるのは越僑(海外在住ヴェトナム人)の初老夫婦。夫はまだ戻っておらず,妻があれこれと荷物を整理したりしていた。
カナダに住んでいて旅行としてやってきた,という彼女。サイゴン(ホーチミン市)はなんとも人がうじゃうじゃしていて好きになれないと言っていた。雰囲気が知的だな,と感じたのも道理,夫婦ともにカレッジ教授だそうだ。詳しくは尋ねなかったが,大分以前に(おそらくはヴェトナム戦争の終わり頃)出国していたらしい。
しばし談笑した後,ちょっと断わってその前の紐にも洗濯物を吊るさせてもらう。お礼に姫リンゴとバナナを進呈。

さて。
買ったばかりの「果物」に手をつけた。なんとも甘い匂いをぷんぷんさせている皮は,イチジクみたいにすっと剥ける。中の果肉はマンゴーにも似ているが,味の方は・・・意外と水気がない。甘いのは甘い。だが,「フルーツ」という感じの瑞々しさでは全然ない。何に似てると言えばいいのか・・・そう,石焼き芋! 妙にほっくりした食感も,食べた量の割に胃にたまる感じがするところも。木になる石焼き芋。
(後に,現地名:Lekima,和名:オオミアカテツという植物の実であることが判明。中南米から移入された植物だとか)
ちょっと酸っぱい姫リンゴを齧って口をさっぱりさせているところに,学者先生が戻ってきた。ここでもまた民族衣装を仕入れてご機嫌そうだ。
彼の持参のインスタントコーヒーに,僕が市場で買ってきたクッキーでコーヒーブレイク。チュラロンコーン大学で社会学を教えているという彼は,天皇制度とか日本の宗教について微笑みながらぽんぽんと質問を投げかけてくる。日本語で答えを考えついても,それを英語で表現するのは難しい。なんだか大学で口頭試問を受けてるような気分だ・・・。
「そろそろトレッキングに行く時間ですよ」
そう。14時20分から(えらく細かい時間だ),僕らのツアーは近在の高床式住居のターイ族などの集落を訪ねることになっていたのだ。けれど団体でぞろぞろ行くのは,厭だ。それに何となく観光臭さが漂っていそうで敬遠したくなる。
「・・・僕はここの町を散策してますよ。ガイドにはそう言っておいて下さい」
それじゃ,と学者先生は立ち上がる。前庭に集合したツアー客たちは,ぞろぞろガイドについて行ってしまった。しん,と静まり返った空気に少しだけ「一緒に行けばよかったかな?」と思ったりもしたが,きっと集団行動に苛々するに違いないからやめておいて正解だろう。
静かになった部屋の中で,しばし旅行中のメモを整理する。揺れる車内で書いたところなどは文字通り蚯蚓の這い跡状態で自分でも判読できなかったりするのを,記憶を頼りに再構成。
・・・庭で何かがきしる音が。目を上げると宿の少年が元気一杯,鉄棒をやっている。
この子に限らず,市場などに集まっていた男の子たち,たいてい目がぱっちりしていて髪の毛は栗色系(そういえば自転車で声をかけてきた子もそうだった)。女の子は特にそんな風でもなくて,どちらかといえば中国人的なアーモンド型の細い目に漆黒の髪色が多かったように思うが。そういう民族系なんだろうか? まさかこの辺りで茶髪が流行っているとも思えない。
バナナに2個めの「木になる焼き芋」を食べると,さすがに胃が膨れた感じがしてきた。メモも整理し終わったことだし,また歩き回ってみようか。
BGM NOW YMO/Yellow Magic(Tong Poo)[★★★★★] |
- 2008/04/22(火) 13:24:48|
- 北部(越南)
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