もくもくとやたら煙い線香の匂いを避けて,再びシクロに。
今度はかなり遠かった。きいきい車輪を軋ませながら,車道をすり抜け小道を抜けて,町の北郊へ。きれいな水の用水路沿いにどんどん走る。両脇は手入れのゆきとどいた瀟洒な家々。学校から帰ってきたらしい子供たちの格好もこざっぱりしていて,余裕のある暮らしぶりが窺える。新興住宅地といったところか。
細かい砂の道はやわらかくて,タイヤが時々ずぶっと埋まる。降りようか?と腰を浮かすのに手を振って,ドライバーは「よいしょっ」とばかりに元に戻す。風もあまりなく,砂からの照り返しがきつい。シートに当たる腿の裏がじんわり汗ばんでくる。ペダルを漕いでいる方はもっと暑いだろう。
どんどん行くうちに木が多くなって,道も次第に細くなる。家並みも途切れ途切れとなり,ちょっと不安になってきた。人もあまり通らないようだし。
遂に道はシクロの幅よりも狭くなってしまった。あたりに家はない。ドライバーは木立の蔭にシクロを止め,ここで降りろと言う。
『おーい,こんなところに降ろしてどうしようってんだよお。これはひょっとしてひょっとしたら・・・』
などと勝手におびえつつ後について歩いていたら,道はあっけなく林を抜けた。目の前一面に若草色の水田が広がる。これはすごい。
真ん中を貫く畦道を歩いて行くと,風に稲の葉がさやさやと鳴り,騒がしいカエルや虫の鳴き声がそれに唱和する。人の気配に驚いた白鷺がぱっと飛び立っては少し離れたところに下りて,こちらを窺うように首を伸ばす。日に照らされた水田特有のちょっと焦げたような,土臭さと混じり合った匂いと熱気が身体を包む。・・・平らな土地の田舎で育った僕にはすばらしく懐かしい姿。
風景が自分の中にしみ込んでくるような感覚に,少し茫然となりながら辿る畦道・・・何度か水牛の落とし物を踏んづけてしまったが,そんなことも気にならない。
色とりどりのアオババの若い女性が3人,ぺちゃくちゃおしゃべりしながら楽しそうにすれ違う。もうお昼前,農作業を一段落させて食事に戻るらしい。
そんな中,ぽつんと島のように浮かんでいる日本人の墓なんかどうでもよくなった。周りを石で囲んだ,ちょっとした空地にでんと置かれた棺のような墓。南国の太陽の下,「墓」という言葉にまとわりつく仄暗さはまったくない,オブジェ。
こんな天気のいい日にここにチェアでもあれば,時を忘れて1日を過ごしてしまえそうだ。また,折よく満月が近かったら夜にここに来てもいい。夜風と虫の呟きと身体にしみ入る月光・・・想像しただけでぞくぞくする。本や音楽なんかいらない。名所なんか見なくてもいい。
身の安全や公安(警察)のことを考えると無理な話だが,いつか実現したいと本気で思ってしまった。
この後に訪れたミーソン遺跡で,神の怒りに触れたかカメラを水没させてしまったため,画像の色がかなりおかしくなっている・・・
- 2008/08/17(日) 15:43:00|
- ダナン,ホイアン(越南)
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